白野週報

Molière a du génie et Christian était beau.

「見た目」に現れる時代性

ドラマの再放送を見ていると実感されることのひとつが、いかに「見た目」というものが時代の刻印を帯びているかということである。『科捜研の女』シリーズは奇天烈なあらすじと沢口靖子の妙なコスチュームプレイがインターネット上でも好評を博しているが、シーズンごとに異なる沢口靖子の衣裳や髪形にその時々の流行の名残を感じることができて貴重である。同じ刑事ドラマでも田村正和主演の『古畑任三郎』シリーズや水谷豊主演の『相棒』シリーズは主役である古畑任三郎杉下右京の扮装は概ね統一されている。古畑は黒のスーツに黒のバンドカラーシャツ、コートやブーツにサングラスも黒という特徴的なスタイルを崩さない。杉下はその時々で着ているものこそ異なるが、三つボタンにサイドベンツ、サスペンダーをしたブリティッシュスタイルのスーツ姿をしている。なお『相棒』の歴代副主人公は亀山薫(寺脇康文)がミリタリーカジュアル、神戸尊(及川光博)がスーツ、そして当代の冠城亘(反町隆史)もスーツスタイルとあまり時代に左右されないスタイルをしている。この三人で言えばしいて言うならフライトジャケットを多用する亀山の扮装は90年代の名残といったような印象を受ける。副主人公たちの中では成宮寛貴演じた甲斐亨がよくしていたジャケットを省略してベストを羽織ったスタイルがいかにも2010年代前半の流行といった気分を漂わせているように思う。私見ではここ数年ベストを羽織るスタイルは流行らなくなっており、街中でもフィクションの世界でもあまり見ることがなくなった。ただし、いつごろからベストが流行らなくなったのかまでは私は知らない。しかし、主役級のスタイルが常に統一されている『古畑任三郎』や『相棒』においても、やはりその時々のゲスト(被害者と犯人)の姿形にはその時代その時代の流行が刻印されている。

私はあまり海外ドラマを見る方ではないが、『特捜刑事マイアミ・バイス』でドン・ジョンソン演じる刑事ソニークロケットテーラードジャケットを袖まくりしたスタイルは80年代の気分を満喫させてくれるような印象を受ける。このソニークロケット風のファッションはかなり流行したらしく、アニメ『シティーハンター』の主人公冴羽獠のファッションはかなりソニークロケットを意識したようなスタイルになっている(原作ではいろいろな服装をしており、案外テーラードジャケットを袖まくりというお決まりのスタイルはしていない)。なお『シティーハンター』と『マイアミ・バイス』のファッションについては以下の『ファッションポスト』の記事が実に魅力的な筆致で考察を加えている(https://www.fashionsnap.com/article/2014-01-15/manga-fashion-cityhunter/)。

 今回は時代性が読み取れるというひどくぼんやりとした話ばかりをしたが、衣裳や髪形、そして持っている小道具から読み取れるものは実に多大であり大変面白い。かつてある劇作家が「衣裳は本質的でないのでジャージでよろしい」という放言をしていたが。無論、ジャージ姿で演じるということでなんらかの審美的な作用が期待できるということもあるのだろう。しかし、外形から読み取れる要素を「本質的でない」として切り捨ててはむなしい。この点では「本質主義」とは無縁なテレビドラマや漫画やアニメの世界の方が「見た目」の重要性を効果的に活用していると思える。これらについてはまた機会があれば書いてみたいと思う。