白野週報

Molière a du génie et Christian était beau.

「ホモコント」の時代

 先日YoutubeでPrinceのPVを視聴していたら、とんねるずの『ホモマン』なるコントがサジェストされた。“Bat dance”との関連だろうと思うが、『ホモマン』とはずいぶんスゴいタイトルである。試しに視聴してみたが、内容は案の定ティム・バートン監督版『バットマン』(1989)のパロディコントで、木梨憲武演じるジョーカーを石橋貴明のホモマンが男色的な絡みで退治するというような内容だった。セットも作りこまれていて、ジョーカー、ホモマンともに衣裳も本格的な作りこみ。そして木梨のジョーカーは英語の台詞を達者に使いよくできたコントだった。しかし、どこが笑いどころなのかは理解できなかった。それは性的マイノリティを笑いものにする不道徳さゆえに笑えないというより、そもそもどこが笑いどころとして意図されているのかが今日の視点からするとよく分からないということが大きいように思う。この『ホモマン』に限らず、「ホモコント」はある時期までは地上波で時折見られたものだった。思い出せしたことについて少しばかり書いてみようと思う。

 調べてみると、『ホモマン』のベースになった「保毛田保毛男」シリーズがあり、2017年にリバイバルして猛バッシングされたという。2017年はテレビをほとんど見なかった年なのであまり記憶にはない。LGBT当事者の著名タレントがバッシングに反論したという話もあったが、そのことの是非については私の語れるところではない。ただ「保毛田保毛男」シリーズの設定を見てみると、ホモフォビア的な嘲りの中にうっすらと同情や理解が透けて見える記述がないわけではなく、そのあたりのことはリアルタイムの視聴者でないと分からないだろう。文字で読むとちょっといい話風に見えるが、実際にはそうでもなかったという話はごまんとある。また、石橋貴明の姉として岸田今日子がレギュラーとして出ていたという話があり、岸田今日子がコントにレギュラー出演していたという情報は今日からすると少し面白いと思った。

 記憶をたどると、とんねるずの「ホモコント」は「エレベーターに閉じ込められたボディビルダー(木梨憲武)がホモ(石橋貴明)の誘導に乗せられてやられてしまう」というものを見た記憶がある。とんねるずはかつて水樹奈々のファンを揶揄してインターネット上の反感を買っていたが、立場の弱い人間を笑いものにするのを得意としていたのだろうか。もっとも、私は熱心なファンではないので全体の傾向など語れるはずもないのだが。

 ただし、同性愛を笑いの種にしたコントはとんねるずに固有のものでなかったことは思い出せる。よゐこのコント「ストーカークイズ」(正式なタイトルは忘れた)は、有野演じるストーカーに監禁された濱口が脱出を賭けて自分にまつわるクイズを解かされるという筋立てで、自分のことを自分以上に知っているストーカーの出すクイズに濱口が答えられないというのが笑いどころになっていた。不正解の罰として有野が「手の甲は犯罪にならない」と称して濱口の全身をべたべたと撫で回すくだりがあり、ここなどは「ホモ的」なものを笑いにしたシーンであろう。

 初期の『笑う犬』でシリーズ化されていた「てるとたいぞう」などはもっと直接的で、内村光良演じる同性愛者が原田泰造演じる男たちと次々恋に落ちては悲しい別れを迎えるというフォーマットで、ゴールデンタイムに移行してからは放送されなかったように思う。似たようなコントに、内村演じる「最強の女」が結婚の条件として原田と格闘し打倒してしまうというようなものが思い出せるが、「てるとたいぞう」は女装コントではなくはっきり同性愛が主題だった。私の親せきなどはこの「てるとたいぞう」がお気に入りだったらしい。今でこそ「人を傷つけない」というようなイメージで語られがちな内村光良も、往年はかなりきわどいことをコントにしていた。話がそれるが同じ『笑う犬』で演じられた「パタヤビーチ」も、観光客の日本人から金をせびろうとする現地人を揶揄したコントで、当時の人は実感があって面白く見たのかもしれないが今日からするとかなりきわどい。

 いますぐに思い出せる「ホモコント」はこれぐらいだが、舞台ではつかこうへいが『いつも心に太陽を』(のち『ロマンス』と改題)や『熱海殺人事件モンテカルロイリュージョン』『売春捜査官』で同性愛を笑いの種にする描写を行っていたことも思い出す。つかの劇作は単に笑いものにするだけで終らないようにはなっているのだが、学生に話を聞くとやはり差別的でギョッとするところが大きいという。

 この手の話題は当事者以外が語ることが難しいし、歓迎されないのだが、思い出したことがあったので試みに書いてみた。道義的な責任をどこまで追求するべきであるのか、また「保毛田」リバイバル時に当事者から好意的な意見が出たことをどう受け止めるべきなのか、考えることは多い。もっとも個人的には、抗議に抗議したタレントたちはいずれも同性愛をオープンにして活動している人たちなので、抗議を行った当事者とは立場が違うことを前提にしなければならないと思う。同性愛当事者が抗議を否定したからこの手の笑いは歓迎されてしかるべきだと即断する事は出来ない。